歯と免疫力

私たち歯科医療従事者は仕事柄常に細菌と闘っております。

患者様のお口の中の細菌はもちろん、空中に浮遊する細菌やウイルスとも闘っております。しかし、闘っているのは仕事中の私達だけではありません。

普通に家で生活していても、車に乗って何処かに出かけていても常に細菌やウイルスと接触しており感染のリスクがあります。

そのため人間の体は常に細菌やウイルスの感染のリスクにさらされているわけです。

 

ところが、家で普通に過ごしていてもしくは、外に出るたびに病気になるというのは基本的にありません。その理由は『免疫』と呼ばれる自己防衛システムがあるからです。

この防衛システムはかなり精巧な作りになっており、体のどの部分に細菌が侵入しても正常に敵を認識して攻撃をしてくれます。

ただし、精巧が故に自身の働く環境が悪くなれば、認識するスピードが遅くなったり、攻撃する力が弱まったりして細菌に負けてしまうこともあります。

生活に必要な栄養を摂取するための大事な口の中でもこの防衛システムは存在します。

 

誤解されやすいですが口や食道、胃、腸などは体の中にあるようで実は、皮膚と同じ『体外』の臓器です。つまり外界と接触している部位になっており、その分細菌やウイルスに晒されるリスクが高くなっています。

さらに口に関しては食物や呼吸を介して細菌等が、最初に侵入してくる部分ですので攻撃されやすく防御しにくい場所になっています。

その場所を何も気にせず放置していれば、免疫力よりも細菌の力が勝ってしまい病気を引き起こします。つまり『歯周病』に感染してしまうのです。

『歯周病』は1本の歯だけに起こるというのは稀で基本的に口の中全体に広がって行きます。「歯ブラシの時にちょっと血が出る」この状態も『歯周病』の一種で細菌の力が増してきている状態です。

『免疫』というのは実際には免疫細胞と呼ばれる細胞が標的に対して攻撃をすることですが、無限にこの免疫細胞があるわけではありません。

個人差はありますが、ある程度の数は決まっています。もし口の中に攻撃対象となる細菌がたくさんいればそれを排除するために全身から免疫細胞が集まってきます。一見心強く思われますが、そのとってきた分は他の場所から持ってきているのでその他の臓器の防御力が下がっているということです。

そのため歯周病を放置するということは歯を失うだけでなく、他の疾患に罹患しやすくなってしまうとも言えます。

また、歯周病が重篤化すると、歯を支えている骨が溶かされてしまい物が噛みにくくなって行きます。そこから柔らかい物を頻繁に摂取するようになり、栄養バランスがどんどん崩れて行きます。

噛めないことによって必要な栄養素を取れなくなってしまう結果、『免疫力』の低下が起こってしまうということもあります。

歯周病はサイレントキラーとも言われ、自覚症状がないまま進行していくことが多くありますので、一度歯科医院で歯周病の検査を受けて自分のお口の中がどれくらい歯周病のリスクがあるのか確かめてみるといいかもしれません。