インプラントのメンテナンス

~インプラントの治療はいつから始まったのか~

インプラントの治療の歴史は古く、記録では紀元前まで遡ることができます。現在に通じるインプラントは1900年代初めに登場しましたが貴金属を材料としたため、うまくいくませんでした。それ以降コバルトクロム合金などを材料にしたものが使用されましたが、これらの金属は生体適合性に劣っていたため、うまくいきませんでした。1950年代にスウェーデンのブローネマルクがオッセオインテグレーションを見出しました。

1965年にチタン製スクリュータイプのインプラントを用いた症例を報告し、その後、長期の臨床成績が発表され、世界中で承認され、使用されるようになりました。我が国では1983年に治療が開始されました。

 

~インプラントの基本構造~

~インプラトと天然歯の違い~

⭐️構造の違い

天然歯には歯根膜が存在しており、歯と骨が歯周靭帯で繋がっています。

歯根膜には一定の幅(数十ミクロン程度)があり、物を咬むとこの幅の分だけ歯は動き、クッションのような役割をします。

インプラントにはこの歯根膜が存在しないため、ダイレクトに骨と接触していて、咬む力によって動くことはほぼありません。

そのため噛み合わせに問題がある場合、無理な力がインプラントに直接影響を及ぼします。ただ、噛んだ時にこの違いを感じる人はほとんどいません。

️⭐️歯根膜について

歯根膜は歯根と骨を繋いでる線維性結合組織です。厚さは0,15~0,38ミリ程度ですが

この歯根膜のおかげで、歯が簡単に抜けることはありません。また、歯根膜には知覚神経が存在し、無理な力が加わった時に本能的に回避する能力が発揮されるのですが、この機能が噛み合わせの機能を逃すクッションの役割をはたしています。

また、無意識のうちに固いものは強く、柔らかいものは弱く噛めるようになっているのも歯根膜のおかげです。[噛みごたえ]を感じる役割もありますが、インプラントの場合はこのような機能は発揮されません。

️️⭐️歯肉線維の違い

歯肉を顕微鏡で組織学的にみると、外側の部分を覆う上皮、中側にある結合組織、歯や骨とつながっている歯肉線維に分けられます。

また、歯肉線維の中でセメント歯肉線維、歯槽骨歯肉線維、セメント骨膜線維はそれぞれの名前の組織をつなげています。歯肉の中の結合組織がセメント質に入り込んでくっついており(デスモソーム)結合歯肉線維が垂直に走っています。

インプラントはこの歯肉線維がインプラント体に対して水平に走っています。あくまでインプラントの入り口部分で密着しているだけ(ヘミデスモソーム)なので、歯肉が剥がれやすく一度炎症を起こすと進行しやすいという特徴があります。

⭐️血液供給量の違い

インプラントは天然歯に比べ血液供給量が少ないとされています。

なぜなら、天然歯の場合は骨、歯肉、歯根膜と3つの方向からの血液供給がありますが、インプラントには歯根膜がないため、血液供給に乏しいとされています。

また、歯周ポケットの内部には細菌と戦う血液成分の一つである好中球が存在し、ポケット内部に細菌が進入してもそれを排除しようとする働きがあります。血液供給が少ないということは好中球の出現が乏しくなるため、感染防御力が天然歯に比べて弱いといえます。

天然歯とインプラントの違いを考えると、インプラントは天然歯に比べ感染防御力が弱いので、一度感染を起こすと骨の吸収が進行しやすくなります。

インプラント周囲炎の初期では自覚症状がほとんどなく、周囲炎が進むことで歯茎の腫れや出血が起こり膿が出てきます。そしてインプラントがぐらついてきて、最終的にはインプラント体が自然に抜け落ちてしまうのです。

せっかく高いお金を払って良いインプラントを入れて頂いているのですぐに悪くなってしまうのは勿体ないですよね?

インプラントをより長持ちさせる為、またインプラントだけでなく患者様のお口全体の健康を長期的に維持させるためには定期的なメインテナンスが必要になります。

インプラントは天然歯に比べると劣る部分が存在するのは間違いありませんが、

歯の欠損に対する治療法として見れば、インプラント治療は見た目の美しさや噛む力に関しては一番天然歯と近いものがあるといえます。

 

~インプラントのメンテナンス~

⭐️インプラントトラブル

外科処置に関係するもの

出血:不十分な縫合,短すぎる圧迫止血などにより,術後に出血が見られることがある。

麻痺:下顎臼歯部への応用で翌日になっても同側の下唇付近に麻痺が残っている場合には,埋入窩形成時の神経損傷か,フィクスチャー先端の神経への接触が考えられるためCTなどで現状を把握する必要がある。

疼痛:フィクスチャーの埋入術に伴う疼痛は軽微ですが,感染,手術時の骨組織への過熱,あるいは硬質の骨にテーパー状のフィクスチャーを埋入した場合,術後2~3週間経過しても疼痛を訴えることがある。

 

補綴処置に関連するトラブル

上部構造の動揺,スクリューの緩み

上部構造に動揺が認められる場合,セメント固定様式ではセメントの脱離かアバットメントスクリリューの緩みが原因です。

スクリュー固定様式では,補綴スクリューあるいはアバットメントスクリューの緩みが原因です。

歯冠修復材料,フレームワークの破折

仮歯などに置き換えて修理します。

根本的な原因はフィクスチャー本体の不足,不適質な埋入位置,補綴装置の不適合,咬合調整の不備があります。

清掃に関連するトラブル

上部構造の設計に清掃性が考慮されていない場合には清掃が難しくなり,天然歯と同様に周囲軟組織に炎症を惹起し,それが契機となって骨組織に炎症が波及してインプラント周囲炎になります。

インプラント周囲粘膜炎:インプラント周囲粘膜に発生する,骨吸収を伴わない可逆性の病変

インプラント周囲炎:粘膜,骨を含めたインプラント周囲組織に発生する,慢性歯周炎と多く共通した特徴をもつ炎症性疾患

〜インプラントのメインテナンの流れ〜

1.問診

2.視診:発赤,腫脹,周囲粘膜,上部構造のチェック,プラークや歯石の付着具合

3.触診:動揺のチェック,咬合チェック,歯肉の触診

4.プロービング:出血,排膿,プラークの有無

5.レントゲン&PHOTO:咬合面観,頬舌側側面観の3枚のPHOTOとデンタル

(上記は年に1回は撮り経過を追う。但し,異変がある場合はその都度撮る)

6.必要であれば歯ブラシの仕方指導

7.付着物の除去:ディプラーキング

⭐️インプラントプロービング

注意点1 インプラントの歯肉縁下の形態は天然歯と全然違う

アバットメントの形態は色々なバリエーションがあり、天然歯の歯肉縁下の形態とはかけ離れた形状をしていることがほとんどです。

【症例】

➀周囲粘膜とアバットメントへの対応

まずは患者さん自身による清掃ができているかどうかの確認を行います。そして上部構造を一度外し、アバットメントの緩みや,アバットメントスクリューの破折といった問題がないか確認します。

問題がなければ,インプラント周囲粘膜を0.025%塩化ベンザルコニウム水溶液などでイリゲーションします。

アバットメントにも汚れが付着している場合は洗浄,消毒を行ったうえで再度つけます。

➁セルフケアの確立のための形態修正

この患者さんはセルフケアの際に歯ブラシのみを使用しているとのことでしたが粘膜の腫脹もあり、歯間ブラシを挿入するスペースが適切ではありませんでした。

このような場合、上部構造の形態を再確認し、患者さんとも相談したうえで、必要に応じて上部構造の形態の修正を提案します。

形態修正後のセルフケア指導

形体修正後、セルフケアの方法や清掃用具をもう一度見直してから実際に患者さんに磨いていただき、指導を行います。その後1~2ヶ月ぐらいで予約をとり、インプラント周囲粘膜を洗浄し、清掃状態を確認します。その際粘膜の状態の変化に応じて歯間ブラシのサイズを再選択する場合もあります。

来院時には口頭でのやりとりだけでなく実際にご自宅で行なっているのと同じように清掃していただきながらチェックすることで、問題の早期発見につながります。まずは定期検診に来院していただく重要性を患者さんに伝え、期間が空いてしまわないように注意します。

インプラント周囲炎に関わらず、

早期発見早期治療が大切なので定期的なメインテナンスを受けましょう!!